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(論壇)  模擬裁判で感じた制度の課題

2009/06/14 『点字毎日』6月14日号
青木 慎太朗(羽衣国際大学非常勤講師)


 先月、京都で催された模擬裁判は、立ち見が出るほどの盛況だった。視覚障害者や関係者の関心の高さの表れであり、不安の表れでもあると思えた。
 模擬裁判は、全盲、弱視、晴眼それぞれ2人の裁判員役が本物の裁判官とともに裁判に参加し、起訴状の朗読から最終弁論まで、実際の裁判の流れに沿って行われた。弱視として参加して、そこで感じた裁判に参加する上での課題をまとめてみたい。
 第一に、書面の問題である。模擬裁判では点字や拡大文字によって書面が用意され、同時に朗読されたが、本番でも同様の対応があるかどうか。さらに守秘義務から、電子媒体を用いた記録の作成は許されていないなか、墨字も点字も使えない人たちが音声パソコンを使ってメモを取れるのか、といった点。弁論の後の評議では当然、法廷でのやり取りをしっかり記憶し、記録しておくことが求められる。
 第二に、証拠調べ。検察側から被告人の有罪を示す証拠品が提出され、裁判員はそれを基に有罪・無罪を判断することから、証拠品の役割は非常に重要だ。模擬裁判では、証拠品を手にとって調べて検察側の主張が疑わしいことが証明されたが、たとえば刃物が証拠品なら、触って確かめることができるのか、という懸念がある。実際はビニール袋などに入れられていることが多く、触って判断することが難しいと思われる。
 第三に、証人尋問・被告人質問である。相手の表情が見えないから、発言の信憑(しんぴょう)性や反省の度合いなどの判断が難しいことが予想される。
 第四に、今回の模擬裁判では、4人の裁判員が視覚障害者であったから、視覚障害があることを前提として評議が行われたが、実際には裁判官を加え8人の晴眼者と1人の視覚障害者という構成になるだろう。その場合に、視覚障害者が十分な判断を下せるかどうか、表情も加味した晴眼者たちの意見に流されてしまわないだろうかとの不安はぬぐい去れない。
 今後もこういった機会を設けてアピールし、視覚障害者の関心を高めていくことや、法曹関係者にも関心をもってもらえるよう働きかけることが重要だろう。


UP:20090901
原稿