>HOME 講演会資料/発表レジュメ など 2005年度博士予備論文構想発表会 大学における障害学生支援の現状と課題
−情報保障を手がかりとして− 2005.07.26 青木慎太朗(公共1)
1.本論文の主旨 我が国における現時の大学(短大、高等専門学校含む)進学率は約50%に上ると言われる。しかし、視覚・聴覚に障害のある学生の大学進学率は5%と非常に低い。大学在学者に占める障害者の割合は0.2%と、非常に低いことがうかがえる。★01 障害のある学生が大学で学ぶ上で、障害のない学生に比べて多くの配慮を要する。視覚障害者に対する点字や拡大文字による教科書・資料等の配布、聴覚障害者に対するノートテイクや手話通訳はその一例であるが、とりわけこれらを総称して情報保障と呼んでいる。ここで情報とは、我々が日常使っているインフォメーション的意味での情報と、より広く講義内容(話されることや書かれること)をも含むと考えられているようである。 博士論文では、大学において障害学生の支援がどのようにして起こってきたのか、歴史的な経緯も含めた論考を行うつもりであるが、その前段としての予備論文においては、障害学生支援の現状、時代区分としては、情報保障という考え方の大きな転機となったIT機器の登場とそういった技術の発展に焦点を絞って、これらが障害のある学生をサポートする上でどのような役割を果たしているのか、今後どのような使われ方が望ましいかについて考えてみたい。 情報を、とりあえず狭い意味で捉え、大学の発信する情報、とくに障害学生支援に関する情報がどのように障害者に伝えられているかといった点を中心に見てみたい。 2.論文の章立て 序章 −問題関心など 第1章 大学における障害学生の支援 1 定義・支援の内容 2 歴史的展開 第2章 近年の動向 1 大学の動き 2 大学を越えたネットワーク 第3章 障害学生の支援とメディア活用 1 Webでの支援情報提供の現状 2 EUのおけるデータベース化との対比 第4章 問題点と今後の課題 ※章立てがまだきっちりと練れていません。 3.研究史上の意義 障害者の支援というテーマでの研究は医療・リハビリテーション・教育・福祉などの分野で多くなされてきている。しかし、学校との関係ということになると、義務教育を中心とした特殊教育や、養護学校か統合教育か、といった議論は多く見られるが、大学と障害者という問題についてはほとんど言及がない。 その一方、アメリカにおける障害者自立生活運動においては、大学との関係が非常に大きい。★02 ニーズがあるにもかかわらず、これまでほとんど研究されてこなかった部分を研究するということになる。 4.今後の予定と課題 現在、日本にも障害学生支援のデータベースが必要であるという視点から、独立行政法人メディア教育開発センターと共同で障害学生支援データベースの作成に取り組んでいる。しかし、障害学生支援についての情報をWebで発信にしている大学は非常に少ない。積極的に取り組んでいる大学の特徴について分析した上で、担当者へのインタビュー調査などを行うことも考えているが、いずれにせよ、まずは情報を集めるという作業を行う。 その一方で、本論で使える理論が見つかっておらず、「べき論」に終始してしまうのではないかとの懸念がぬぐい去れない。大学における配慮の平等★03という点で議論を進めていくべきなのかどうか、迷っている。 そして、「問題点と今後の課題」で言及したいと思っているが、障害学生支援ということ自体のイデオロギー性の問題があるように思う。問題が障害学生であったり、支援されるべきは障害学生であるといった考えにつながりかねないが、それが誤っているということが最近になって徐々に明らかになってきた。 文献 ★01 佐野(藤田)眞理子・吉原正治『高等教育のユニバーサルデザイン化―障害のある学生の自立と共存を目指して』,大学教育出版,2004年 ★02 定藤丈弘「大学教育における障害者差別の禁止」,八代英太・冨安芳和編『ADAの衝撃──障害をもつアメリカ人法』,学苑社,1991年 ★03 石川准『見えないものと見えるもの──社交とアシストの障害学』,医学書院,2004年 杉浦哲朗「障害者教育の現状と課題−国立大学の取り組みを中心に」『大学時報』2002年3月号,日本私立大学連盟,2002年 田中邦夫「情報保障」『社会政策研究』第4号,東信堂,2004年 冨安芳和・小松隆二・小谷津孝明 編『障害学生の支援』,慶應義塾大学出版会,1996年 広瀬洋子「欧州における高等教育の障害者支援HEAGデータベース」,『メディア教育研究』,独立行政法人メディア教育開発センター,2005年 福岡教育大学FD研究会「障害のある学生への支援−福岡教育大学の取り組み−」,『教育実践研究』別冊,福岡教育大学教育学部附属教育実践総合センター,2002年 UP:20050726 ◇講演会資料/発表レジュメ など |